小学生のときに感じた小さな違和感が、田舎暮らしへの憧れの原点になった細見 優太さん。神戸で9年間の会社員生活を経て、妻のあかねさん、二人の子どもと共に高知県・土佐町に移り住んだのは2017年のことでした。
現在は、山水を引いて、薪でご飯を炊き、5人の子どもたちと暮らしています。神戸で夢見た暮らしを、土佐町で少しずつかたちにしている細見さんご夫妻に、お話を伺いました。

細見 優太(ほそみ ゆうた)さん・あかねさん / 2019年 土佐町
小さな用水路から始まった、田舎暮らしへの憧れ
―――神戸から土佐町へ、移住のきっかけを教えてください。
小さい頃からずっと、田舎暮らしがしたいと思っていたんです。父の実家が兵庫の田んぼがいっぱいある田舎で、夏休みのたびに行っていました。当時は田んぼの間の用水路がコンクリートじゃなくて、地元の人が手で掘った土の水路。網ですくったら、生き物がめちゃくちゃ取れたんですよ。それがもう楽しくて。
でも小学校2年生のとき、いつものように網ですくっても、全然取れなかったんです。おかしいなと思ってじいちゃんに聞いたら、「農薬使ったら、そこの生きもの全部死んでもうたんや」って言われて。それが本当にショックすぎて。今までそんなの使わずに人間は生きてこれたはずやのに、なんでこんなことせなあかんねん、と子どもながらに思ったんですよね。「自然に負荷をかけない暮らしがしたい」って、その時からずっと考えていました。
そこから大学を出て神戸で就職して、営業を9年やってきました。田舎暮らしをしたい気持ちはずっとあったんですけど、勇気が出なくて。そんな中で、ある大きい商談があったんです。厳しい状況やったんですけど、最終的に契約してもらえて。そのときに、「人間、頑張ったら何でもできるのかも」って思えたんです。「じゃあ田舎暮らしも、挑戦してみよう」って妻に相談したら、「ええんちゃう」って言ってくれましたね。
もともと二人とも、付き合った当時から田舎で暮らしたいねって話をしていたんですよ。だから、私的にはいつでもって感じでしたね。ちょうど上の子が小学校1年生に上がるタイミングだったのも、良かった。

「水がきれい」で、たどり着いた土佐町
―――たくさんある地域の中から、なぜ土佐町だったんですか?
最初は海外も候補にあったんですよ。ニュージーランドやオーストラリアとか。でも一旦、日本も見てみようって。「水がきれいなところ」というのが、僕らの一番のポイントだったんです。そんななか四万十川の「日本最後の清流」というワードが頭にあって、高知が気になっていました。
夏休みに家族4人で高知一周のキャンプに出たんです。海側もいいなと思って足摺のほうまで回って一通り見た後に、妻が「四国の真ん中の方も見てみたい」って。
なんとなくね、行ってみたかったんですよ。
そしたら、今はないんですけど、土佐町に「笹のいえ」という移住者の方が営んでる田舎暮らしの宿があると知って。一泊させてもらったら、もう、めちゃくちゃ良かったんです。薪で生活したり、山水を使ったり、まさに自分たちの理想にドンピシャ。ライフスタイルも、地域の空気も。
吉野川の源流域だから水もめちゃくちゃきれいで、標高が高いから空気もきれい。キャンプで回っている間、神戸ナンバーを見て地元の人が声をかけてくれたり、いろいろ気にかけてくれたりして、「高知は人もいいぞ」と。それで、「日本で住むんやったら嶺北や」って決めました。
そのあと実際に海外にも行ってみたんです。でも向こうって、オーガニック食材とか、もうスーパーに普通に並んでいて、認知度もある。それなら日本でやったほうが社会的なインパクトがあるかもしれない、と思って、やっぱり嶺北だなと移住を決めました。

苔玉と、YouTubeと。
――今はどんな活動をされているんですか?
まず、家の近くの方が、ずっと苔玉を作っている方で。「後を継ぐもんがおらん」という話を聞いて、少し手伝わせてもらっているうちに、楽しくなってきたんですよ。今は苔玉教室を、いろんな場所でやらせてもらっています。移住した最初の1年間は、土佐町役場の教育委員会でも雇っていただいて、いろいろな仕事を手伝いながら暮らしをスタートさせました。
最初はそうやって、細々したお手伝いをしながら、少しずつ広がっていった感じですね。
もう一つはYouTubeです。当時は「自分の生き方というか、こういう選択肢も世の中にあるぞ」というのを発信したい、強い志みたいなものがあったんです(笑)。それでブログをやっていたんですが、時代がだんだん動画に移っていくなかで、「どこかのタイミングでYouTubeもやりたいな」とずっと思っていて。今は2つチャンネルを持っていて、自分のペースで更新しています。
都会で会社員をしていた頃は、自分ではどうにもならないことが多すぎたんですよ。会社の方針もそうやし、上司の考え方に従わないといけない場面も多くて。でもここでは、全部自分がやるかやらないか、なんです。それが納得できていい。
苔玉も、YouTubeも、全部自分の裁量の中で動かしていける。そういう働き方が、今の自分にはすごく合っているなと思っています。


これが、当たり前になった暮らし
――今のお住まいでの暮らしを、聞かせてください。
土佐町に来て今年で9年目です。こっちに来てから子どもが3人生まれて、今は5人の子どもたちと暮らしています。料理は薪でやっていますし、お風呂も薪、水は山水を引いています。でも、もはやそれが当たり前になっていて。
「薪で料理して美味しい?」ってよく聞かれるんですけど、うちは毎日薪だから、美味しいって特に思わないんですよね(笑)。
キャンプに行って薪で料理をすると「美味しい!」ってなるじゃないですか。それとは全然違って、これがもう普通の生活なんです。生活に時間はかかりますよ。妻もよく言うんですけど、「日々の生活が大変で、プラスアルファでやろうと思っていることが全然進まない」って(笑)。
子どもらがのびのび暮らせるのは大きいかな。神戸ではマンションに住んでいて、子どもがちょっとバタバタするだけでクレームが来て、警察が来たこともあったくらいだったんです。ずっと周りに気を使って、常に子どもについていないといけない。それに比べたら、ここは大声を出しても、走り回っても大丈夫。すぐそこに川もあるし、自由なんです。近所の方も家族みたいに接してくれて、野菜を持ってきてくれたり。ありがたいことしかないですね。
自分の中の変化で言うと、都会にいた時は、家族と過ごす時間がとにかく少なくて。土日も仕事のことばっかり考えてたし、帰ったら子どもは寝ていたし。それが、こっちに来てから圧倒的に増えたんです。
これからやりたいことは、この土地で自給自足度を上げていくこと。まだまだやりたいことがいっぱいで、進まないんですけど、少しずつやっていこうと思っています。
もし移住を考えている方がいたら、まずは一度、その地域へ足を運んでみるのがいいかもしれません。その地域の空気を感じて、そこに住んでいる人たちと話してみると、いろいろと見えてくるものがあると思います。良い選択ができるよう、応援しています。




