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好きなことを形に。本とカフェと宿で描く、石原での暮らし

出版業界、大手書店を経て、高知・土佐町の小さな集落「石原」へ。
本に携わり続けてきた大髙さんは、古書店カフェと宿を開き、自然と地域の人々に囲まれた暮らしを始めました。移住を通して見つけた、新しい生き方と仕事のかたちを伺いました。

大髙 竜亮(おおたか りょうすけ)さん / 2024年1月 土佐町移住

本と暮らす、高知での定住計画


―――移住を考えるようになったきっかけを教えてください。

新卒で大手の会社に入り、出版取次の仕事を10年。その後、間に3社ほど経験して、5社目で蔦屋書店に携わるようになり、気づけばずっと本に関わる仕事をしてきました。蔦屋書店でのキャリアは20年ほどになりますね。

高知蔦屋書店に配属されて3年前の2月に高知市へ転勤してきたんですが、その頃から「高知に定住したい」という気持ちが芽生えました。転勤前も出張でよく高知には来ていたんですが、いざ住んでみると県民性でしょうか、みな面倒見が良くて。おかげでいい繋がりが増えていったんですよね。

あとはS U P!仁淀川で初めてS U P をした時に、すごくいいねってなって、すぐに自前のボードを用意しました(笑)高知県はプライベートリバーみたいなとこばかりで、それって首都圏では考えられないくらい贅沢な暮らし。

ごはんが美味しいのは言うまでもなく、人の良さ、自然の恵みや自然環境を感じられること、体験できる魅力に惹かれましたね。じゃあどうせ住むなら、この土地でできることをしようと考え浮かんだのは、やっぱり“本”。長く本に携わってきたので、本を売ることは自分にとって外せない軸でした。

それに加えて、妻が飲食をしていたので「カフェもやれたらいいね」と。さらに、その2つだけでは生活面で厳しそうだと感じたので、インバウンド向けの“宿”も組み合わせ、3つの柱で定住の計画を立てました。

棚田との出会いが決め手、土佐町での暮らし


―――今の場所はどうやって見つけましたか?

夫婦で「景色のいい場所に住もう」「川のほとりがいいよね」というイメージを持っていたんですが、なかなかピンとくる場所が見つからなくて。

そんな中、共通の趣味である山登りで初めて土佐町を訪れ、絶景で有名な高須の棚田を見たんです。それまで知らなかった景色に出会って「こんな棚田を見下ろしながら仕事ができたらいいね」と話し合い、その日のうちに“れいほく田舎暮らしネットワーク”のサイトをチェック。そこで、今の場所を見つけたんです。

ただ、サイトには“土佐町”としか書かれてなくて(笑)。気になって案内してもらうことにしたんですが、担当の方からは「本気なの?結構ハードル高いけど大丈夫?」と念を押されました。それでも「とにかく見たい!」という気持ちが強くあったんですよね。実際に案内してもらったら、想像していた棚田とはまさかの反対側(笑)。でもその日は晴れていて、目の前に広がる景色が本当にきれいで。僕らが思い描いていたイメージにピッタリでした。

建物は手入れが必要な状態でしたが「DIYで手を入れていきたい!」という気持ちも強かったので、これはありだと思い、すぐに決断しましたね。田舎ならではの急な坂など気になる点もありましたが、それ以上に心が動いた。候補地にも入っていなかった場所が、一気に最有力になって、そのまま決定したという訳です。

300 人の集落がつくる、まるで大家族のような日々


―――実際土佐町に移住してみてどうですか?

田舎暮らしは初めてでしたし、この“石原”という場所は物件がきっかけで決めたので、地域の方とうまくやっていけるのか、少なからず不安はありました。けれど、それは本当に杞憂でしたね。

引っ越し当日の夜には、地域の皆さんが集まって歓迎会を開いてくださったんです。僕にとっては9回目の引っ越しでしたけど、住民の方がこうして迎えてくれた経験は初めてで。これまでの都会暮らしでは、隣にどんな人が住んでいるのか分からないなんて当たり前でしたから、驚きましたね。

建物を改装しているときも、毎日のように誰かが気にかけてくれるし、外に出れば自然と会話が生まれる。生活の中で人とつながる機会がいつもあるので、孤独とは無縁です。移住担当の方から「ひっそり暮らしたい人には向かないかも」と言われていましたが、本当にその通りでした。

人口300人ほどの小さな集落ですが、運動会や盆踊り、クリスマス会など、地域行事をとても大切にしています。そうしたイベントがあるからこそ人がつながっていく。この“石原”には家族のような温かさがあって、僕たち夫婦はその雰囲気にずいぶん助けられましたし、今ではこの場所を心から好きになりました。

本に囲まれた時間を届ける、古書店カフェと宿


―――今はどのような仕事をしていますか?

去年の7月から改装を始めて、丸1年かけて準備をし、今年の7月10日にようやく自分たちのお店をオープンしました。

事業の形は“古書店カフェ”と“宿”。本の販売があって、その延長で「本を読みながらコーヒーやスイーツも楽しめる」というスタイルです。宿は独立した形ですが、泊まった方が自由に本を手に取れるようにつながりを持たせています。

店いっぱいに並べている古書は、すべて自分ひとりで決めています。蔦屋書店では常に新刊に触れていましたが、世の中には名著や“読んでおきたい本”が星の数ほどあって。自分の中で“死ぬまでに読みたい本”を中心に集めているので、究極の積読本書店(笑)。「これは買わないでほしい」なんて思う本もあったりします。街の本屋よりは少し古めかもしれませんが、その良さを伝えたいし、ずっと本と向き合ってきた自分だからこそ届けられるものがあるんじゃないかと思っています。

石原に根を張り、未来へつなぐ居場所づくり


―――実際の反響はどうですか?

改装の様子をSNSで発信していたこともあって、オープンから1か月ほどですが、すでにリピートしてくれるお客さんもいます。最初は古書店に来てくださった方が、次は宿に泊まりに来てくれたりもして。「夜通し本が読めますね」って言ってもらえたのは、すごくうれしかったですね。

このあたりにはもともとカフェやお店がなかったので、地域の住人で利用する方はまだ少ないんです。でも少しずつ、生活の中に自然と組み込まれて「本を買うならここ」「ちょっとお茶するならここ」と思ってもらえる存在になっていけたらいいなと思っています。

僕たちは、これからずっと石原で暮らしていくつもりです。人が減っていくだけだとさみしい場所になってしまうから、若い世代を中心にもっと人が増えてほしいし、ここに住んでいない人が訪れるきっかけになるような拠点も増えていってほしい。そのために、まずは自分たちから。土佐町の一番端にある石原で、「目に見える事例のひとつ」として受け止めてもらえたらうれしいですね。


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