東京で忙しく働く日々の中で、「もっと自分らしく働きたい」と思い始めた山田さん。
その想いが導いたのは、高知県大川村での“自給自足に近い暮らし”でした。
協力隊として過ごした日々を経て、今ではパンとコーヒーの移動販売を通じて地域に溶け込み、「ありがとう」と直接伝えてもらえるやりがいを実感しています。
都会では得られなかった豊かさに出会った、山田さんの移住ストーリーをお届けします。

山田 朋広(やまだ ともひろ)さん / 2020年 大川村移住
働き方を見直した先に見えた“地方移住”
―――移住しようと思ったきっかけは、どんなことだったんですか?
もともと東京でいわゆるサラリーマンをしていました。ある日、上司から「人生の三分の一もの時間を使うのなら、楽しく仕事をしたいよね」と言われ、その言葉をきっかけに働き方について考えるようになったんです。
それまでは漠然と仕事をしていて、どこか受け身の姿勢でした。そこで「まずは能動的に向き合ってみよう」と思い、転職や環境を変える挑戦をしましたが、自分のやりたいことが見つからず、苦しい結果になってしまいました。
色々な経験を重ねる中で「そもそも自分は何をしたいのか」と改めて考え、辿り着いたのが“自給自足”。自給自足の生活を目指すなら地方移住も一つの選択肢だと思うようになりましたね。ただ、その時点では仕事とどう結びつくのかは全くイメージできていなかったんです。
―――大川村のことは、どんなふうに知ったんですか?
「緑のふるさと協力隊」ってご存じですか?地域おこし協力隊のボランティア版みたいな制度で、全国に10数か所の派遣地があるんです。僕はちょうど働き方や生き方に悩んでいた頃に参加したワークショップで、その制度を教えてもらいました。大川村移住のきっかけは、その場で出会った協力隊OB の方に悩みを打ち明けたことだったんです。
この制度では派遣地ごとに体験できる内容が違っていて、希望を第3 希望まで出せる仕組みになっています。僕は自分の興味がある一次産業に絞って調べて、第2 希望に大川村を選んでいたので、ご縁があって協力隊として来ることになりました。
“ないなら作る”が原点。大川村で見つけた暮らしの可能性
―――緑のふるさと協力隊としての一年で何か見えましたか?
協力隊として1年間、大川村に滞在しました。農家さんや養鶏場のお手伝い、高齢の方との交流、村の行事のサポートなど、とにかくいろんなところに顔を出しましたね。制度のおかげで分野を問わず幅広く関われたことで、人とのつながりがどんどん広がっていった一年でした。
また、この一年は「自分がこの村でどう生きていくか」を考える時間にもなりました。たとえば、普段の生活でふと気づいたのが“パン”の存在。東京にいた頃は、好きなときに美味しいパンを買えるのが当たり前だったけど、ここではそうはいかない。あったとしても、自分好みとは限らないんです。「じゃあ、自分で作ればいいじゃん!」って、思い立っちゃって(笑)。
経験ゼロで、専用の機材もないところからのスタートでしたが、調べてみるとフライパンでも作れることが分かって、試しに挑戦。すると、これが意外と美味しくて! そこからはもう、試作と挑戦の繰り返しでした。少しずつ腕が上がっていくと、周りの方から「美味しい!」と言ってもらえることも増え「これならこの村で生きていけるかもしれない」と、未来の姿が少し見えた気がしましたね。
それで、みどりのふるさと協力隊の任期を終えた後は、大川村の地域おこし協力隊に応募することを決めたんです。
フライパン1 枚から始まった挑戦
―――協力隊を経て今はパンの移動販売をされているんですよね?
はい。今は任期を終えて正式に大川村の村民として暮らしながら、今は週2回の移動販売を中心に、声をかけてもらえれば出張販売やイベント出店もしています。
地域おこし協力隊としての3年間は、自分の生業をつくるための準備期間としてとても有意義でした。「村のえき 結いの里」でパンを置かせてもらったり、イベントで出店させてもらったりと、少しずつ名前を覚えてもらえ、気づけば「山田くんのパン」と呼んでもらえるようになっていきましたね。
活動を続けるなかで「パン一本では厳しいかな」と思うこともあったんですが「コーヒーもやってみたら?」と声をかけてくれた人がいて。それで、一からコーヒーの勉強も始めて、今ではパンとコーヒーが生業の大きな二本柱になっています。
最初はフライパンで焼くところからのスタートでしたが、おかげさまで今では業務用のオーブンも使えるようになり、レパートリーも40種類くらいまで増えました。協力隊のときにパン教室に通わせてもらえたのも、本当にありがたかったですね。サポート体制が整っていたからこそ、いろいろと挑戦ができたんだと感謝しています。
大川村で見つけた本当のやりがい
―――移住する前と後とでは、心境の変化はどうですか?
みどりのふるさと協力隊の1年目で「やりたいこと」を決めて、地域おこし協力隊の3年間で開業準備をしました。振り返ってみると、ブレずに思い描いた道を歩んできたなぁと感じます。
収入は都会で働いていた頃より下がっています。でも、暮らしは安定しているし、気持ちの充実度は確実に上がっているんです。
大川村には「ないもの」が多いけど、だからこそ工夫次第で商売のチャンスが広がる。
ちょっとしたことでも喜んでもらえたり、応援してもらえたりする環境がここにはあるんですよね。
会社員時代は、自分の仕事が誰の役に立っているのか実感できませんでした。でも今は違う。「ありがとう」と直接言ってもらえたり、嬉しそうな顔を見られることが、何よりのモチベーションになっています。僕はずっとこの感覚を求めていたんだなって。大川村で大事なことに気づかせてもらいましたね。






