「林業をする上でこれほど条件の良い地域はないと思います」
――そう語るのは、本山町に移住して今年 10 年目になる立川真悟さん。
地域おこし協力隊として林業の現場に入り、本山町役場を経て、現在は一般財団法人「もりとみず基金フォレスター」として活動しています。森と水でつながる嶺北地域の未来を見据えながら歩んできた 10 年。その歩みと、嶺北で林業に関わることの可能性について、お話を伺いました。

立川 真悟(たちかわ しんご)さん / 2017 年 本山町移住
一本のご縁から、嶺北の森へ
―――立川さんが本山町に来られたきっかけを教えてください。
僕は高知市出身で、大学は東京の方で森林学科を専攻していました。
大学生の頃からずっと林業や森林に興味があって、地元の高知で林業に関わる仕事がしたいなと考えていたんです。
きっかけになったのは、本山町で自伐型林業を実践されている川端俊雄さんとの出会いですね。
大学時代、自伐型林業の若手林業家が東京で集まる機会があって、そこで川端さんに初めてお会いしたんです。
そのご縁で本山町に遊びに来るようになって、卒業研究の調査も嶺北でさせていただきました。
大学 4 年生のときに、川端さんから
「本山町で地域おこし協力隊の林業ミッションの募集があるよ」
って教えてもらって。もともと就活もほとんどしていなくて、見つかったところでいいかなというくらいの気持ちだったので、ここ一本で応募しました。
他の地域は本当にぜんぜん見なかったですね。「ここに落ちたら、また別を考えればいいかな」くらいでした。
高知が地元とはいえ、本山町や嶺北地域に特別ゆかりがあったわけではないんです。
ご縁、人とのつながりで来た感じですね。2017 年の 4 月に移住して、今年でちょうど 10年目に入りました。
現場と学び、3 年間の協力隊
―――地域おこし協力隊の 3 年間と、その後役場で働くことになった経緯について教えてください。
協力隊のときは、現場の林業作業と、研修の大きくわけて二本柱で活動していました。
高知県には林業大学校があって、一般向けの講習もしているので、そこで資格を取ったり勉強させてもらい、それがないときは、本山町の林業の現場で木を切ったり、植え付けや草刈りをしたり。地元で何十年も林業をやってきた方の下で働かせてもらったり、協力隊 2 人だけで現場を回したり、本当にいろいろな経験を積ませていただきましたね
協力隊のいいところって、現場経験を積みながら、お給料も出つつ、勉強もできることなんですよね。
普通の会社に入ると、どうしても現場を動かすことが優先になってしまう。でも協力隊は、勉強の時間もちゃんと取れる。そのバランスの良さは、すごくありがたい 3 年間だったなと思います。
協力隊を終えたあと、本山町役場に会計年度任用職員という立場で入って、林業担当として 3 年 10 ヶ月ほど働きました。現場作業を続けるという選択肢もあったんですけど、ちょうど森林環境譲与税(※1)の交付が始まったタイミングで、役場としても林業の施策をいろいろ進めていきたい時期だったんです。
役場の職員さんは 2、3 年で異動があるので、専門的な知識を蓄積していくのがどうしても難しい。そこで、現場も学問も分かる人が役場の中にいた方が動きやすいんじゃないかという話になって、枠を作ってもらって入らせていただきました。
役場では、町の森林・林業を将来的にどうしていくかというビジョン作りを、中心になって進めていま
した。
※ 1 森林環境譲与税:森林整備のための財源として、国民から徴収されている国税。先行して森林環境譲与税として、市町村への交付が 2019 年から行われている。2024 年から本格的に森林環境税の徴収が始まった。
「もりとみず基金」で見据える、森の新しい価値
――今のお仕事「もりとみず基金」について、活動内容や立ち上げの経緯を教えてください。
役場で働きはじめて 2 年目くらいのときに、
土佐町の方から「林業関係の新しい組織をを作ろうという動きがあるんだけど、一緒にやらないか」という話をいただいたんです。
ちょうど僕も役場の業務として、町の森林・林業を将来的にどうしていくかというビジョン作りをやっていて、その中で林業関係の団体を新しく作るような構想も進めていたんです。
だから、こっちで新しい組織ができるんだったら、それと一緒にやった方がいいんじゃないか、という話になって。役場の業務をしつつ、立ち上げにもちょこちょこ関わって、2024 年 1 月にもりとみず基金として設立したタイミングで転職という形で移ってきました。なので、立ち上げ段階から関わっていた感じですね。
今の僕のポジションはフォレスター(※3)です。仕事自体は、分かりやすいところで言うと 2 つあって。
ひとつは「林業人材の育成」で、地域の林業者向けの研修や講演会を企画し、県外から講師を呼んできたりしています。もうひとつは、山主さんから管理を委託していただいて、計画を立てて事業を発注していくこと。直接伐採作業をするというよりは、計画を立てる側ですね。
もりとみず基金は、一般的な林業会社とちょっと違うところがあります。
普通の林業会社は、山主さんから山を買うなり管理を引き受けて、そこの木を伐採して販売して、その売ったお金で収益を出していくっていう仕組みなんです。
でも僕らの場合は、管理をしつつ木材も搬出するんですけど、それだけじゃなくて、森の「環境価値」というところに注目しているんです。
森って、木材を生産するだけじゃなくて、たとえば降った雨を、森がなかったら一気に流れてしまうところを、森があることでちょっとずつ出していってくれるみたいな働きがあるんですよね。
森があることで人々の生活が支えられている、そういうところをちゃんと見える化して、都市部の方に「こういう価値があるから、森林の整備のために関わってくれませんか」って広げていく取り組みが、中心としてあります。
だから、地域の林業振興をしつつ、基金自体でも森林を管理して、環境価値の高い森を作っていく、ということを並行してやっているという感じですね。
一番分かりやすい取り組みでいうと、CO2 クレジット。森林の CO2 吸収量を算定して、ある意味、商品にできる仕組みがあるんです。
それを山主さんと一緒に「クレジット作りませんか」って話をして、計画書や資料を作って進めていく。
都市部の企業さんは逆に排出量を減らさなきゃいけない状況なので、クレジットを買いたいというニーズが割とあるんですよね。まだ販売には至っていないですけど、こっちでクレジットを作ったので、「買いつつ、嶺北の森にも関わってくれませんか」みたいな話を、いま進めているところです。
※2 もりとみず基金:水源域の高知県嶺北地域と、利水域の香川県高松市が連携し、2024 年 1 月に設立された一般財団法人。森と水の持続可能な循環を目指す中間支援組織。
※3 フォレスター(森林総合監理士):森林・林業全般の幅広い知識を持つ国家資格保
持者。地域の森林管理の計画立案や、林業者への技術指導などを担う。
林業を続けていきたい人へ、この地域から伝えたいこと
――嶺北で林業に関わってみたい、移住して林業を始めたいと考えている方にメッセージをお願いします。
去年、本山町の協力隊募集の事業で移住者向けのツアーを企画したんです。
協力隊のOB・OG の方たちを連れて回ったんですけど、示し合わせたわけじゃないのに、みんな共通して言っていたのが「この地域で林業ができなかったら、他のどこでもできないよね」っていうことだったんです。
嶺北は、林業をやるうえでとても条件のいい地域なんですよ。人工林が多い地域ですし、そのなかでも質のいい山が多い。そして、伐った木の出し先、つまり製材工場や流通の拠点が嶺北のなかにも、近隣の地域にもある。
県内には片道 2 時間運ばないと出し先がないという地域もありますから、これは本当に大きいんです。仕事を作っていく仕組みも、森林組合や、僕らのような団体ができていて、林業者に仕事を流していける流れがあります。
実際、本山町や土佐町の林業協力隊は、卒隊後の定着率がすごく高くて、これは異様な数字だと僕は思っていて、続けていける環境がちゃんとあるからこの結果なんだと感じています。
あと、地域の方々の温かさもあります。僕も移住者ですけど、移住者に対して変な期待もないし、ハードルもなく、フラットに関わってくれる人が多いなというのは、協力隊の頃からずっと思っています。
移住者か地元の人かに関係なく、地域のために動いてくれる人として一緒にやっていこうという雰囲気が、嶺北にはあるんですよね。
これからの林業は、木材だけじゃない価値をどう作っていけるかが課題だと思っています。
木材は大事だし、これからも生産していく必要はある。でもそれだけだと回らないというのが正直なところで、田舎だけじゃなく都市も巻き込みながら、森を支えていくお金や人の流れを作っていきたい。
もりとみず基金としても、仲間を求めています。決まった道があるわけじゃないので、不確定要素の多い道を一緒に楽しんでくれる方がいたら、嬉しいですね。
森の初心者でも、これから学んでいきたいという方でも大歓迎です。





