大学卒業後、嶺北地域のひとつ大豊町へ移住し、結婚。子どもができ、大きくなっていくにつれ「子どもには歩いて通学できる環境で育ってほしい」という思いが、少しずつ芽生えていったと話す田畑さん。ライフステージの変化にあわせて、隣の隣の土佐町へ。
川と山に抱かれたこの町で、暮らしはどのように変わっていったのか――。移住から数年経った今の暮らしについてうかがいました

田畑 勇太(たばた ゆうた)さん / 2019年 土佐町移住
移住のきっかけは「子どもが歩ける環境を」
―――土佐町へ移住を決めたきっかけは何だったんですか?
土佐町に来る前は、同じ嶺北地域にある大豊町で暮らしていました。高知大学を卒業して、大豊町でトマト農家を営み、数年後に離農。その間に長男が生まれ、一歳半になったころに土佐町へ移住したんです。理由としていちばん大きかったのは、子どもに“歩いて登下校してほしい”という気持ちでしたね。
大豊町で当時住んでいた地区には子どもがいなくて、日常的に同年代と関わる機会もほとんどありませんでした。僕は愛知県の出身なんですが、子どもの頃は歩いて登下校をしていて、その時間がすごく楽しかったという記憶が強く残っているんです。だからこそ、自分の子どもにも、友だちとわちゃわちゃしながら学校にいってもらいたいなという思いがあって。
そこで田舎暮らしネットワークさんに相談して家を探し始めたところ、今の家を紹介してもらいました。ここがすごく良かった。家の中も広くて、もし子どもが外に飛び出したとしても、交通量が少ないから危険も少ない。さらに川がすぐそばにあって、学校にも歩いて行ける距離。これからの理想の子育てを考えたときに、ここならイメージできるなと自然に思えて、移住を決めましたね。ライフステージに合わせて近隣の市町村で住環境を変えられるのが、嶺北のいいところだと思います。
自然のなかで“伸びていく”子どもたち
―――土佐町で暮らし始めて、実際どうですか?
子どもたちは、とにかくのびのびしてますね(笑)。もちろん毎日なにかしら怒ることはありますが、もし都会のマンションに住んでいたら、もっと注意しなきゃいけない場面が多かったんだろうなと感じています。
僕自身、団地暮らしだったのでわかるんですが、足音ひとつにも気をつかいますよね。うちは男の子2人なので、もし街中の集合住宅に住んでいたら…きっと大変だったと思います(笑)
その点、いまの家は広い平屋なので、家が運動会状態の時もありますが、ドタバタして騒いでも周りには迷惑をかけることはない。ある程度の“好きにしていい範囲”が広がったことで、必要以上に怒らなくていいし、子どもたちにとってもすごく健やかな環境だと感じています。実際、ふたりとも活発に育っていますね。
近所の方もよく声をかけてくれるんです。それこそ長男が学校に通い始めたころ、道路を渡る場所があって心配していたんですが、近所の方が『さっき危なかったよ』と声をかけてくれたり、みなさんが日頃から気にかけてくれるんです。気づいたら近くのおじいちゃんのところで芋掘りをしていた、なんてこともありましたね(笑)
都会のように“常に大人がついていないと不安”という環境ではないからこそ、子ども自身が考えて行動する場面が増えて、自然と自立心も育ってきた気がします。土地のあたたかさと自然の豊かさの中で、子どもたちがぐんぐん伸びていくのを実感しています。
東京の仕事、地域の仕事。二つをつなぐ日々
―――今はどんな仕事をしているんですか?
メインは東京の企業でリモートワークをしています。IT系の仕事なので、オンラインで完結できる部分が多くて、場所を選ばなくても働けるのは本当に助かります。
僕が所属しているのが新規事業開発部っていうところで、例えば土佐町のツアーなどのプログラムを作ったり、貸別荘を構えて宿泊事業をしたり。東京の会社ではありますが、嶺北地域の仕事ができているので、とても良い仕事環境だと思います。
その一方で、嶺北高校の魅力化プロジェクトにも関わっています。地域の人たちと一緒に、学校や子どもたちをサポートする取り組みで、移住してから広がったご縁です。
あとは『もりとみず基金』の活動にも関わりながら、地域でのイベントを手伝ったり、集まりに顔を出したり、最近では妻と一緒に子ども食堂を立ち上げ、その活動もしています。今日頭に被っているキャラクターは、子ども食堂のキャラクターなんです。
土佐町で暮らし始めてはや数年。気づけば、人とのつながりが自然と増えていて、不思議とここでの“自分の役割”みたいなものが見えてきましたね。
綺麗な川がすぐそこにある生活
―――移住を検討されている方に伝えたいことはありますか?
土佐町は四国の真ん中に位置しているので、県外へのアクセスが意外といいんです。それこそ家族連れでのお出かけもしやすくて、“山の中だから不便”というイメージは実際あまりないですね。
あと高知といっても、土佐町をはじめ嶺北地域では、冬には雪が降る日もあって、山の景色も四季によってまったく違う表情を見せてくれます。夏は川で遊んで、冬は雪遊びもできる。『こういう景色の中で子どもを育てられるんだなあ』と、しみじみ感じることが増えました。
生活圏に川があることも大きな魅力です。家から少し歩けば、美しい水が流れていて、子どもと一緒に気軽に遊びに行ける。夏は魚を追いかけたり、飛び込んだり、都会では考えられない“贅沢な遊び”ができます。嶺北には汗見川といって、この地域で人気の川があるんですが、制服のまま、体操服のまま、中学生や高校生が来て遊んでいる光景をよく見かけます。きっと彼らは“特別な場所”だとは思っていない。でも、あれって本当に恵まれた環境ですよね。自然がすぐそばにあって、それが日常の延長にあるということ。それが嶺北らしさなんじゃないかな。
『自然の中でもっと子育てしたい』
『家族の時間を大事にしたい』
そんな思いがある人には、とても合う場所だと僕たちは思います。






