香南市出身の大島さん夫妻は、3人のお子さんと一緒に本山町へ移住しました。家族で過ごすのびのびとした日々の中で、土佐あかうしの放牧や畜産の仕事に挑戦し、地域の方々とつながりながら暮らしています。保育園での経験や地域の温かい人々との関わりを通して、家族も町も一緒に育っていく――そんな日常の楽しさと充実感を、大島さんが語ります。

大島 渉(おおしま わたる)さん / 2020年2月 本山町移住
牛と暮らす未来を思い描いて
―――本山町に移住したきっかけを教えてくれますか?
生まれは香南市で、高校卒業をきっかけに県外へ進学しました。大学、就職、そして結婚。子どもも3 人できて、愛知県の暮らしやすい街で家族5 人の生活を送っていました。
ただ、ふと「老後は放牧された牛を横目に、のんびりお茶を飲みたいな」と思ったんです。できれば四国カルストのような、広々とした土地で、牛が自由に過ごす風景の中で暮らしたい、と。
その夢を叶えるには、やっぱり広い土地が必要でした。加えて、親に何かあったときにすぐ手を差し伸べられる距離にいたいという思いもあり、高知県に戻ることを決心しました。
最初は乳牛を育てたいと考えていたんですが、実際は初期投資がかなりかかるんです。牛舎を建てたり、搾乳の機械をそろえたり。そんなハードルをクリアできる“居抜き物件”を四万十の方で見つけて、「さあ、移住だ!」と盛り上がっていた矢先に、突然貸してもらえないことになってしまって…。
全てがゼロに戻ってしまい、改めて高知中の森林組合に相談して探した結果、たまたま見つかったのが本山町でした。実は広大な土地って、相続などで細かく分かれてしまっていることが多く、なかなかまとまった形では出てこないんです。そんな中で、東京ドーム14〜15個分もの土地を一人の方から購入できたのは、本当に幸運でしたね。
乳牛からあか牛へ──学びながら見つけた自分のスタイル
―――乳牛ではなく今飼っているのは肉牛ですよね?
畜産って、やっぱり周りの理解があってこそ成り立つものだと思うんです。移住して地域に馴染むにはどうしたらいいのかなと考えていたときに、ちょうど地域おこし協力隊の募集があったので、「これだ!」と思って飛び込みました。
協力隊は任期中にきちんとお給料が出るし、卒業後も初期資金や補助金を確保しやすいというのは分かっていました。でもそれ以上に「牛を飼いたい!」という気持ちが強くて、移住してすぐの冬には乳牛を飼ってしまったんです。待ちきれなかったんですよね(笑)
もちろん、牛を飼うのは初めてだったので、やってみて気づくこともたくさんありました。特に乳牛は、搾乳がある分、肉牛に比べて1日2〜3時間余分に手間がかかるんです。あるとき家族全員がノロウイルスにかかって「餌はなんとかやれるけど、搾乳までは無理だね…」という状況になってしまって。
「放牧で牛を育てたい」という思いは変わらなかったので、方針を切り替えて、翌年の秋には土佐あかうしを飼い始めました。気持ちを優先して動くと身体もついてくる!と思いながらも、実際には上手くいかないことも多いです。でも、その経験から学んで次に生かせているので、行動力があるのは自分の強みだと思っています。
自然と子育てのやさしさがそろう町で
―――3人のお子さんと一緒に移住して、暮らしはどのように変わりましたか?
まず、本山町はやっぱり環境が素晴らしいですね。自然がすぐそばにあって、道で遊んでいても車通りが少ないので、子どもたちがのびのび過ごせます。ちょっと車を走らせれば、透明度の高い川で遊べたりして。そういう豊かさは、以前の暮らしとは全く違いますね。
子どもが3人いるとどうしても入り用も多いですが、本山は子育てにとても優しい町だと思います。保育園は保育料も給食も無料。小学校も給食が無料で、中学に上がる時には制服や通学用のヘルメットも支給されるんです。学校の給食も地元の食材を使った手作りで、土佐あかうしが出ることもあるんですよ。食育の面でも、すごくありがたい環境です。
もちろん、都市部に比べると大きな公園が少なかったり、習い事の選択肢が限られたりと気になる点もあります。でも、それを補って余りあるくらい、この環境は本当に素晴らしいと感じています。
“その子らしさ”を大切にする教育の場
―――本山町での子育てで伝えたいことがあるとか?
本山町で子育てをしていて、一番人に伝えたいのが“保育園”のことです。
一般的には運動会やお遊戯会などに向けて、みんなが同じ動きを練習することが多いと思うんです。できる子は目立てるけど、できない子は取り残されてしまう…そんな場面もありますよね。
でも本山町の保育園は違いました。子ども一人ひとりが「どうしたいか」を大切にしてくれるんです。たとえば、真ん中の子は人見知りが強くて前に出るのは苦手なんですが、先生が丁寧に話をしてくれて「大道具や場面転換で物を運ぶ役がやりたい」と本人が言ったときには、その役割をきちんと任せてくれたんです。参加しないのではなく、その子らしい形で参加できるように工夫してくれる。こういう気遣いは本当にありがたかったですね。
さらに、保育園での様子や子どもの特性は小学校にもしっかり引き継いでくれるので、安心して成長を見守ることができます。社会に合わせることも必要ですが、まずは「その子にとって一番いい形」を一緒に考えてくれる大人がいる。これはすごく心強いことだと思います。
おかげで園全体の雰囲気も良く、保護者にとっても居心地がいいんです。ただ、どんなに素晴らしい環境でも、子どもの数が減ってしまえば続けていけない。だからこそ、人を呼び込み、この町で子育てを選んでもらうことが大切だと思います。
胸を張っておすすめできる保育園がここにあります。地方で子育てを考えている方に、ぜひ届いてほしいですね。






