岡山県出身の塩﨑さんは、大学でのボランティアをきっかけに野外教育の面白さに気づきました。その経験を活かして、大川村の山村留学指導員として子どもたちと1年間じっくり向き合う生活をスタート。今では家族と村で暮らしながら、子どもたちの成長を間近で見守り、自然の中での学びをサポートしています。
大川村は小さな村ですが、だからこそ子どもたちの変化をしっかり感じられる環境が整っています。「教育に関わる仕事をしながら、自然と暮らす体験をしたい」──そんな方にぴったりの場所です。

塩﨑 由加里さん / 2018年 大川村移住
自然の中で子どもたちの成長を育む
―――今の仕事に着くまでの経緯を教えてください。
私は岡山県出身で、高知大学に進学しました。もともとは英語教育専攻で、教員を目指していたんです。でも、大学時代に室戸市にある「青少年の家」で、活動のサポートやイベントのお手伝いをするボランティアを重ねるうちに、その働きを認めてもらって「職員にならない?」と声をかけてもらったんです。
進路を真剣に考えたとき、教壇に立つ自分の姿はあまりイメージできなくて…。それよりも、室戸で体験した“野外教育”のほうが強く心に残っていました。カヤックやシュノーケリングなど、自然の中での学びを通して、子どもたちがどんどん成長していく姿を目の当たりにして、「これは素敵な教育だな」と感じたんです。
当時お世話になった恩師にも、「子どもの様子を知らずに教育現場に行く人は多いけれど、まずはこういう場所で知っていくことも大事だよ」と言われて。その言葉にも背中を押されて、卒業後は室戸青少年の家に就職しました。
大川村との出会いと移住の決断
―――大川村にはどうやって辿り着いたんですか?
青少年の家で5年ほど働いたあと、室戸で少しだけ別の仕事をしていたんです。そんなとき「教育関係で良さそうな仕事があるよ」って知人が教えてくれたのが、大川村の山村留学指導員の仕事でした。
青少年の家では、2泊3日くらいの短いスパンで子どもたちと接するんですが、野外活動を終えたあとの子どもたちの表情って、本当にいいんですよね。同行していた先生方も「普段の顔とは全然違う」と言ってくださるんですが、私たちは日常のその子を知らないので、その変化がどれくらい大きいのかは分からないままで…。そこが、ずっと心のどこかに引っかかっていたんです。
そんな中で出会った山村留学指導員の仕事は、1年間を通して子どもたちと関われる環境でした。「これなら、子どもたちの変化や成長をもっと深く感じられるかもしれない」って思ったんです。週末には野外活動もあるので、今までの経験も活かせるし、短期から長期の関わりに挑戦してみよう、と飛び込むことを決めました。
2016年の夏から約9ヶ月働き、結婚を機に一度大川村を離れたんですが、1年後の2018年4月には家族で移住する形で戻ってきました。実は夫も教員免許を持っていて教育に興味があったので、大川村の教育委員会の方が「一緒に働きませんか」と声をかけてくださったんです。それがきっかけで、今も家族みんなで大川村で暮らしています。
山村留学の仕組みと子どもたちの暮らし
―――改めて“山村留学”について教えてもらってもいいですか?
はい。大川村では、子どもたちの教育に力を入れていて、その取り組みのひとつが「山村留学」です。 山村留学は、高知県外に住んでいる小学5年生から中学3年生が対象で、1年間親元を離れて共同生活をしながら、大川村の小中学校に通う制度なんです。
もう30年以上続いていて、これまでに300人以上の子どもたちがこの村で過ごしてきました。基本は1年単位のプログラムで、毎年新しい仲間を募集しています。
子どもたちは「大川村ふるさと留学センター」という寄宿舎で生活し、掃除や洗濯、食事の準備など、自分のことは自分たちでやっています。私たち指導員は、共同生活のサポートや学校・保護者とのやり取りのほか、週末の地域活動や村の行事に参加するお手伝いもしています。
親元を離れて育つ、特別な一年
―――実際に長い時間、子どもたちと関わってみて、どんな風に感じていますか?
そうですね、長く関わることで子どもたちの変化ははっきり見えるようになってきました。でもその分どうしても“親”みたいな立場になってしまうので、距離が近くなりすぎてしまうこともあります。思春期真っ盛りの子たちということもありますし、時代の変化とともに子どもたちもどんどん変わっていくので、自分たちも一緒に変わっていかなきゃいけないなと、日々手探りで関わっています。
全国から集まってくる子たちは、少なからず“しんどさ”を抱えています。大人数の中で埋もれてしまったり、なかなか自分を出しきれなかったり、そういう思いをしてきた子が多いのかなと感じますね。
でも大川村では、人数そのものが少ないからこそ、人前に立つ機会が自然と多くなります。生活面でも自分のことは自分でやるし、共同生活を通して人との関わり方も学べます。親元を離れて過ごす1年間は大変なんですけど、留学を更新する子も実は多く、ここを“学びの場”や“成長の場”と感じてくれているんだと思います。
留学できる期間は最長で5年。実際、5 年まるまる留学を続けた子も少なくありません。1年目は人見知りで自分の気持ちをうまく話せなかったのに、中学を卒業する頃には留学生のまとめ役になっていたり、、来た頃は誰が見てもヤンチャだった子が、5年後にはみんなから信頼される存在に成長していたり。そういう子どもたちの変化や成長を目の当たりにできるのは、この仕事ならではのやりがいで、本当にうれしい瞬間ですね。
小さな村だからこそ育つ力
―――子どもたちのにとって”大川村での暮らし”は?
村内では運動会や文化祭など、村民と留学生が交流できるイベントがたくさんあります。
留学生のことは広報誌でも紹介されるので、村民の方がすぐに子どもたちを覚えて気にかけてくれるんです。大川村は小さい村ですが、そのいい意味での小ささが子どもたちを育てているんだなと日々感じますね。
また、卒業した子たちが成人するときには、村からも成人式のお知らせを送りますが、大抵の子が戻ってきてくれるんですよね。小さな同窓会みたいになってみんな楽しそうで。私たちもまたその子の成長を見ることができて、嬉しい瞬間なんです。
私にも子どもが一人いますが、よく口にしているのが「この村が大好き」という言葉。
大川村には高校がないので、高校は村外に通うことになるけれど、「必ず戻ってきたい」と言っています。
小さい村だからこそ、都会にはない自然があり、ここでしかできない体験がある。子どもたちが感じるこの村の魅力は、きっとそういうところにあるんでしょうね。
一般的な教育現場とは少し違いますが、こうした“教育”の形もあること。子どもたちの成長を支える選択肢のひとつとして、多くの方にこの大川村、取り組みを知ってもらえたら嬉しいです。






